2014年4月28日月曜日

ドゥルージバ・キエフ報告会

ドゥルージバ・キエフ報告会 (http://web.cc.yamaguchi-u.ac.jp/~ai369/kief.html)

これは、10月14日(日)に山口グループの例会で行われたものをテープ興ししたものです。固有名詞等聞き取れなかった部分は(?)や(不明)としてあります。ご容赦ください。
 1986年にチェルノブイリから煙といっしょに放出された放射性物質は上空1500メートルまで舞い上がりヨーロッパをはじめ世界中に広がりました。それは火事が消されるまで数日間続いていました。原発で働いていた人びとは大量の放射線を浴びました。何人かの人は短い間になくなりました。他の人は急性放射線障害になりました。事故の後数千人の人とチェルノブイリ周辺に住んでいた人の健康状態は非常に悪くなりました。多くの人が治療のむづかしい病気にかかりました。特にこどもの体は放射線の影響をうけやすいので重い病気の子どもの数は特に最近急速に増えてきました。それは11年間で体の中に放射性物質がたまってきたからです。事故直後放射能は空気や水といっしょに体のなかに入りましたが、その後食べ物といっしょにすこしづつ入り込んで害を与えています。
  日本は世界で唯一の被爆国ですから、他の国の人々より放射能の恐ろしさについてよく理解できるでしょう。チェルノブイリ事故の後、核兵器だけでなく原発などの原子力施設も人民にとって危険であることが明らかになりました。広島と長崎で亡くなった人の数は、とても多いことを知っています。しかし、チェルノブイリ原発から放出された放射能は広島型原爆の500個分以上のものなので、長い間数百万人の人々にとても恐ろしい影響を与えつづけるでしょう。チェルノブイリ事故の影響が及んだのはヨーロッパだけではありませんでした。チェルノブイリの放射性物質は北アメリカ、アフリカ、オーストラリアに飛びました。極東と中近東にも原子力の恐怖と が届きました。ご存知の通り、1986年5月日本でもヨウソ131、セシウム137などの放射性物質によって食品が汚染されました。もっとも恐ろしいことは、大阪でお湯の中に放射性物質が発見されたことです。(不明)一言でいえばチェルノブイリ原発によって放射された放射能は生物種としての人間の死滅の恐れについての全世界に対する最後の警告なのです。
  ウクライナ国民の健康状態はどうしようもなく悪化しています。チェルノブイリ事故の影響だけによって全人口の死亡率は2.3倍、14未満の子どもは2.4倍に増加しました。 1987年から1996年にかけて大人や未成年者は血液循環系の病気%以上、悪性腫瘍13%、消化器系の病気2。1%、14歳未満の子供たちの場合は、先天性発育異常21%、悪性腫瘍は7。7%、うちリンパ造血系4。1%です。この6年間でウクライナの人口は115万人自然減少しました。この数字は今世紀末までに倍増すると予測されている。労働可能な年齢で亡くなった人の内、81%が男性です。コレラやペストなどの伝染病や戦争のない時にこの状態なのです。ウクライナでは成人障害者の数は130万人、児童障害者の数は13万5千人に増えました。いうまでもなくこのような国民の健康の悪化はチェルノブイリ事故の影響と密接な関係があります。ウクライナの全体に、事故処理員と彼らから生まれた2万人の子供たちが住んでいます。彼らはすべて保健機関に登録されています。11年前、10歳から15歳であった人たちからも子どもたちが生まれています。被災者の妊婦も51%は貧血症です。毎年5万人の妊婦は流産もしくは死産によって胎児を失います。ウクライナ安全保健保障委員会(?)によって出産前の母子の血液中の放射性物質は同じであることが初めて解明されました。つまり天然の牢壁(?)である胎盤が胎児を放射線から守っていないわけです。その後、子どもは母乳から放射性物質を体内に取り込みます。公式のデータによれば、小学校の1年生の内、10%は知恵遅れ、呼吸器の慢性疾患、消化器の慢性炎症、尿道炎、甲状腺の病気です。
  チェルノブイリ事故当時0歳から18歳であった人のうち1996年までに911人が甲状腺ガンになりました。その重い病気は事故の前にはめったに病気になりませんでした。甲状腺の異常は、機能障害、重い場合にはクレチン病を引き起こすことが知られています。ウクライナ住民が受けた外部被爆の他に、水による内部被爆があります。ドニエプル川の流域で放射能に汚染された水を3500万人以上の人が使っています。それはチェルノブイリの隣に ぷりてぃんつい(不明) という川があります。とても汚染された地域ですから水といっしょに放射性物質はその川にはいってぷりてぃんついはドニエプルにそそいでいます。多くの人がその水を使って体内に放射性物質を蓄積しています。しかし の量の被爆も神経系の病気をひきおこしてます。惨事が起きた最初の日から事故処理員たち に心理状態の異変が認められました。脳が破壊されニューロンが死にました。体の病気が空想しんくう系(不明)の不調をもたらします。病理解剖検査によって脳の萎縮が確認され、へいせいの量も脳の被爆によって異変が起こっているのが電子顕微鏡をもちいて証明されました。もっともよくみられる症状は記憶力の減退と知能の低下です。被爆の脳のがいはくしつげんしょう(不明)は、呼吸器系、循環系、免疫系、内分泌系の病気の原因になります。4号炉の下でトンネルを掘っていた42人の炭鉱夫には気管の異変がみられました。事故後80.7%の子ども達に歯の病気と歯肉炎が見られます。6歳の子どもでは歯肉炎は35%、14、5歳の子どもの場合では88.4%です。1歳の子どもに歯がはえていないことがあります。毎年500人の子どもが白血病で医師にかかります。いま大人や子どもの白血病患者は5000人です。1980年から1996年の間に血液病と血液造血器官の病気は、被災者の大人と未成年者で3.9倍、児童で2.7倍増加しました。悪性腫瘍の発生率の増加は大人と未成年者で2.2倍、子どもで3.6倍です。これがチェルノブイリ事故の影響であることは何ら疑う余地はありません。10年間で一級障害者の増加率は事故処理員で24.2倍、疎開させられた人と移住者(高濃度汚染地区の住人)で4.6倍、汚染地域の住人(中レベルの住人)で1.4倍増加しましたが、このことも事故の影響を示しています。この恐ろしい、しかも公式のデータを国際原子力機関は認めたがらないのです。10年たって彼等ははじめて甲状腺がんの増加がチェルノブイリ事故の結果であることを認めました。私たちの地球のいたるところに原発があります。原子力の専門家たちは他の主要なエネルギー源を利用しようという考えを否定するためにできるだけの努力をしています。ウクライナの元エネルギー経済電波大臣***(不明)は著書の中で次のように書いています。「私は原子力エネルギー産業と闘う人たちを助けたいと強く願っていました。これまで原子力の専門家たちは原発はコストが安く安全でエコロジー的に無害であるという神話を唱えてきました。これは全部嘘です。原子力エネルギー産業は核兵器産業のテクノロジーの延長です。人間を殺す為に考え出されたものが人間に利益をもたらすはずがありません。予言者は故郷に受け入れられぬものです。ヘレン・カルデコットは1978年の「核の恐怖」という本の中で既に原子力エネルギーと核兵器産業が突然変異をもたらす二つの主な放射線源であることを示しました。70年代すでに原子力エネルギー産業はコストが高く、危険でエコロジー的に有害であるということがいわれていました。どうして今でも技術者たちはそれがわからないのでしょうか。世界の有力者たちはもし放射性廃棄物をどこにどのように保存すればよいのかわからないというのなら、いったい何をかんがえているのでしょうか。世界銀行の専門家のサンペインによれば、コールベル放射性廃棄物貯蔵所の建設費は2、3億ドルと見積もられています。放射性廃棄物を防御するための安全な設計はまだありません。原発の核燃料の在庫はあと30年分あると計算されています。しかし、放射性廃棄物は永遠にのこるもので、プルトニウム239の半減期は24500年です。それをしっていながらどうして原子力エネルギーの開発をすすめることができるのでしょうか。放射性廃棄物は自然、人間と将来にとって生死にかかわるものです。
  1946年から1982年にかけて60万個のコンテナが海洋投棄されました。ソ連だけでも1959年から個体液体の放射性廃棄物250万キュリーと原子力潜水艦、破氷船の原子炉を海洋投棄されました。その大部分はカラ海と極東地域に捨てられたのです。その結果海産物は汚染されて危険なものになっています。放射性廃棄物はわれわれから将来の世代への悪しき遺産です。その遺産はすでに存在していて、それをなくしてしまうことは誰にもできません。1989年のデータによれば、立入禁止区域に約1億トンの放射性廃棄物が貯蔵されています。放射性廃棄物の一時的貯蔵所のあるところはいまだにはっきりわかっていません。航空写真をとってもわかりませんでした。ほうい核のあつまり(不明)が日のいづる国と全世界からいわれている日本をほろぼそうとしました。地獄からとりだした放射能の混合物が自然が豊かで美しいウクライナに降り積もり、半世紀にも渉ってのこっていくのです。ですから日本の国民とウクライナの国民は二つの悲劇によって兄弟となったといえるでしょう。ですから私たちは被爆した人、汚染された民族をいっよに救わなければなりません。日本の科学もウクライナの科学も苦いとはいえ大きい経験を積んできているのですから。いまウクライナの医師たちは病気になった子ども達を治療するためにできるだけのことをしています。しかし今ウクライナでは、経済状態は非常に悪く、失業率も高いです。ウクライナの法律によって勤労者の給料の10%は国家予算に出します。その額は被災者の保養設備に使います。しかし、給料は安く、そのため十分な額ではありません。いま一番大事な問題は、病気の子どもたちの健康状態、すべてのこどもたちのけんと(不明)の検査と予防です。ウクライナの専門家の予測によって将来甲状腺ガンになる子ども達の数は、150万人になるといわれています。チェルノブイリ原発から放出された放射性物質の影響は30世代までのこるという指摘もあります。
  あなたがたはそのビデオをみてからすこし事故のあとの状態についてわかったにちがいありません。その最初の日は、多くの人々はチェルノブイリ事故の正確なデータを知りませんでした。たとえば5月1日に多くの人々はメーデーにいきました。そして5月8日にキエフで自転車の国際大会が開かれました。それもキエフのおおくの住民は観戦にいきました。天気が良く野には花が咲いていました。 多くの人々は子どもと一日中散歩しました。その結果大きな被害がでました。私たちは、はじめて事故の規模をスウェーデンの放送から知りました。ソ連の政府はそれについて事故のあと90日以上たって知らせました。ウクライナ保健省大臣は毎日住民に次のようにいいました。「ぬれた布を使ってそうじしてください。まどをあけてもいいです。散歩してもいいです。あまり危険ではありません。」その結果人々は信じて大きい被害を受けました。キエフの子どもたちは5月末までキエフにたくさんいました。汽車と飛行機の切符を使うことができませんでした。多くの人はキエフからすぐにでることはできませんでした。

2014年4月27日日曜日

【京都大学原子炉実験所資料】 チェルノブイリ原発事故によるベラルーシでの遺伝的影響

【京都大学原子炉実験所資料】

チェルノブイリ原発事故によるベラルーシでの遺伝的影響


ゲンナジー・ラズューク,佐藤幸男*,ドミトリ・ニコラエフ,

イリーナ・ノビコワ

ベラルーシ遺伝疾患研究所(ベラルーシ),*広島文化女子短期大学

 

 

チェルノブイリ原発事故で放出された放射能により,ベラルーシ,ロシア,ウクライナの数多くの住民が被曝し,その影響が遺伝的な損傷,とりわけ染色体の異常として現れていることは多くの研究結果によって示されている1,4,6.染色体異常の増加は,不安定型と安定型,また染色体型と染色分体型といった,いずれのタイプの異常にも認められている4,7,8.(放射線被曝に特徴的な)2動原体ならびに環状染色体といった異常とともに,化学的変異原にも共通するその他の染色体異常の増加が認められていること6,9,また実際に観察された染色体異常の頻度が被曝量推定値から計算されるものより大きいこと4,5が明らかとなっている.これらの事実は,チェルノブイリ事故被災者に認められる染色体異常は,被曝の影響に加えて他のいろいろな変異原によって引き起こされているか,または,物理的な手法に基づく被曝量が過小に評価されている可能性を示している.

染色体異常の観察結果が,生体に対する変異影響を測るための生物学的尺度として有効であることは言うまでもない.しかしながら,染色体に基づく方法によっては,通常の末梢血リンパ球の観察ではもちろん,たとえ性細胞の異常を観察したとしても,実際の遺伝的な影響を検出することは困難である.自然流産率,周産期死亡率といった遺伝的損傷の経年変化,先天性障害児発生率の経年変化といった研究が,放射線の影響を含め,遺伝的変異原の影響を調べるもっとも確かな方法である.このことは,遺伝子の変異から先天性障害をもつ子どもの誕生までの間には,(遺伝子の選別,着床前や胎児期での死亡といった)数多くの事象がつながっているという事実と関連している.そうした事象を直接観察することはほとんど不可能であり,そのことがさまざまな不確定性をもたらしている.最終的な結果を直接観察する方法のみが,それなりの欠点はあったとしても,遺伝的損傷に関する実際の情報を示すことができる.本報告では,合法的流産胎児の形成障害と,新生児・胎児における先天性障害の観察を基に,チェルノブイリ原発事故がベラルーシの住民にもたらした遺伝的障害の大きさを明らかにする.

合法的流産胎児の形成障害

われわれは,放射能汚染管理地域とミンスク市(対照グループ)における,合法的流産胎児の形成障害頻度の観察を行なっている.汚染管理地域とは,ゴメリ州とモギリョフ州のセシウム137による汚染が15Ci/km2以上の地域である.ベラルーシ先天性疾患研究所では,胎齢5週から12週の間に掻爬された胎児を調べている.検査は,ステレオ顕微鏡下で胎児を解剖しながら行なわれ,必要であれば,病理標本を作成する.すべての胎児の胎齢は,カーネギー研究所方式で決定されている.掻爬にともなっていくつかの臓器が検査不能になることもあるので,形成障害の頻度は,検査された胎児数ではなく,検査された臓器数に基づいて決定される.また,胎児の形成過程を考えると,いくつかの障害はある胎齢以降にしか観察されないので,そうした障害の頻度は,その胎齢に達した胎児のみを考慮する.検査で発見した形成異常はすべて記録している.これまでに,3万3376例の胎児を検査し,その中には(1986年後期以降の)汚染管理地域の2701例が含まれている.

検査結果の一部を表1に示す.汚染管理地域での形成障害の頻度を,チェルノブイリ事故前6年間および以降11年間のミンスク市と比べると,汚染管理地域の値はミンスク市のどちらの値よりもかなり大きい.また,汚染管理地域において,1986年から1995年の平均値(7.21%)に比べ,1992年に大きな値(9.87%)があったことを指摘しておく3.

中枢神経系異常や(多指症や肋骨縮体といった)新たな突然変異の寄与が大きい障害など,放射線被曝に特徴的と考えられている部位において有意な増加が認められているわけではない.しかしながら,それらの増加傾向はかなりはっきりしたもので,とりわけ肋骨縮体において認められる.

表1 人工流産胎児の形成障害頻度

 
調査地区
ミンスク市
放射能管理地域
1980-1985
1986-1996
1986-1995
観察胎児数
10,168
20,507
2,701
形成障害頻度 (%)
5.60
4.90
7.21*
うちわけ:   
中枢神経系異常
0.32
0.53
0.54
多指症
0.63
0.53
0.79
四肢欠損
0.07
0.10
0.28


新生児の先天性障害

ベラルーシ共和国では,新生児の先天性障害に関する国家規模でのモニタリングプログラムが1979年から行なわれている.医療施設のランクにかかわらず,すべての医療施設において周産期児(分娩前後の胎児・新生児)の先天性障害が診断・登録されている.それぞれの症例については,診断にあたった医師が登録用紙に記入し,その用紙がミンスクの遺伝センターに送られる.先天性疾患研究所のスタッフが,定期的な地域巡回か,センターにおける家族面談の際に,記載のチェックを行なっている.新生児,および胎児診断後に人工流産された胎児に観察された障害は,無脳症,重度脊椎披裂,口唇・口蓋裂,多指症,重度四肢欠損,食道閉塞,肛門閉塞,ダウン症,および複合障害に分類されて登録される.セシウム137の汚染レベル別の結果を表2に示す.セシウム137の汚染レベルが1Ci/km2以下の30地区を対照グループに選んである.

表2 ベラルーシの国家モニタリングにおける先天性障害頻度(1982~1995)

(上段:新生児1000人当り頻度,下段:観察数)


障害の分類
セシウム137汚染地域
対照地域
(30地区)
15 Ci/km2以上
(17地区)
1 Ci/km2以上
(54地区)
1982-1985
1987-1995
1982-1985
1987-1995
1982-1985
1987-1995
無脳症
0.28
11
0.44
26
0.24
48
0.64*
226
0.35
23
0.49
63
脊椎披裂
0.58
23
0.89
53
0.67
132
0.95*
335
0.64
42
0.94*
120
唇口蓋裂
0.63
25
0.94
56
0.70
137
0.92*
324
0.50
33
0.95*
121
多指症
0.10
4
1.02*
61
0.30
60
0.66*
232
0.26
17
0.52*
66
四肢欠損
0.15
6
0.49*
29
0.18
36
0.35*
123
0.20
13
0.20
26
食道閉塞
0.08
3
0.08
5
0.12
23
0.15
53
0.11
7
0.14
18
肛門閉塞
0.05
2
0.08
5
0.08
16
0.10
35
0.03
2
0.06
8
ダウン症
0.91
36
0.84
50
0.86
170
1.03
362
0.63
41
0.92*
117
複合障害
1.04
41
2.30*
137
1.41
277
2.09*
733
1.18
77
1.61*
205
合計
3.87
151
7.07*
422
4.57
899
6.90*
2423
3.90
255
5.84*
744
事故後の頻度増加(%)
83
51
50
*:1982-1985年と1987-1995年を比べると有意に増加 (p - 0.05).

 

セシウム汚染地域と対照地域とも,チェルノブイリ事故後に先天性障害頻度が増加していることは明らかである.また,セシウム汚染レベルが大きくなるほど,頻度の増加が大きくなっている.対照地域では50%の増加であるのに対し,15Ci/km2以上の地域は83%の増加である.対照地域における頻度増加が放射線被曝によるものではないことは確かであろう.一方,汚染地域では,対照地域を越える増加が,54地区では1%(51-50),17地区での33%(83-50)と汚染レベルに応じて認められている.

こうした増加をもたらす原因として考えられるのは以下の4つである.

チェルノブイリ事故後の先天性障害の増加は,真の増加ではなく,単に見せかけのものと考えられる.つまり,登録がより完全になったこと,言い換えると,被災地域における問題への関心が増加した結果である.
放射能汚染による胎内被曝にともなう胎児への直接的な被曝影響.
どちらかの親の生殖線被曝にともなう突然変異による遺伝的影響.
チェルノブイリ事故を含めたネガティブな要因(放射線のほか,化学汚染,栄養悪化,アルコールなど)の複合的影響.
最初の見せかけ説は,ベラルーシにおける国家モニタリングを基に,以下の理由で否定されよう.第1に,厳密に診断された先天性障害のみを考慮していること,第2に,先天性疾患研究所のスタッフによって診断の正確さは常にチェックされてきたこと,第3に,チェルノブイリ事故前はさまざまな地区においてほぼ同じ頻度であったこと,最後に,先天性障害頻度と汚染レベルに相関性が認められることである.

胎内被曝原因説も,放射線感受性の大きい胎児期での胎児の被曝量がしきい値以下であったことを考えると否定される.先天性障害児の母親のうち,チェルノブイリ事故がおきてから妊娠第1トリメスター(妊娠期間を3つに分けた最初の時期)の終わりまでに55ミリシーベルト以上の被曝を受けたものはいない.放射線被曝に最も特徴的な先天性障害である,中枢神経系欠陥の形成時期は,第1トリメスターに含まれている.国家モニタリングの調査結果(表1と表2)は,中枢神経系障害の有意な増加を示していない.

ベラルーシにおいて先天性障害の増加をもたらしている原因として最も考えられることは,慢性的な被曝またはネガティブ要因の複合的な影響による,突然変異レベルの増加である.以下の事実も間接的にこれを示している.

チェルノブイリ事故で被曝したベラルーシ,ウクライナ,ロシアの人々の末梢血白血球において突然変異レベルが増加している2,5,8.
15Ci/km2以上の汚染地域での増加が大きく,なかでも,新しい突然変異が大きく寄与する障害(多指症,四肢欠損,複合障害)が増加している.ただし,新しい突然変異のうち,ダウン症といったトリソミーの増加は認められていない.
先天性障害の増加とチェルノブイリ事故による被曝との関係を調べるため,ゴメリ州とモギリョフ州における(大きな都市は除いた)データを,放射能汚染については安全と考えられるビテプスク州のデータを対照としながら解析してみた.被曝量は,放射線医学研究所のデータで,18歳以上の住民について,事故発生以来の外部被曝と内部被曝を合わせた平均被曝量である.

解析結果を表3に示す.対照地域に比べ,汚染地域での先天性障害頻度の増加1%当りの平均被曝量は,モギリョフ州では0.20ミリシーベルト,ゴメリ州では0.31ミリシーベルトである.これらの値を,放射線被曝による遺伝的影響の倍加線量に換算すると0.02~0.03シーベルトとなり,国際放射線防護委員会(ICRP)や国連放射線影響科学委員会(UNSCEAR)が採用している倍加線量値の1シーベルトに比べ極めて小さな値となる.この結果は,放射線被曝にともなう遺伝的影響が従来考えられてきたより大きいものであるか,または,解析に用いた被曝量の値が実際の被曝よりかなり小さく評価されていることを示唆している.

表3 先天性障害頻度と平均被曝量の比較(農村地区,18歳以上)


地域
新生児1000人当り
先天性障害頻度
チェルノブイリ事故
による平均被曝量
(ミリシーベルト)
障害頻度増加1%
当りの平均被曝量
(ミリシーベルト/%)
1982-85
1987-95
1986-94
ゴメリ州
4.06 0.39
7.45 0.24
13.40
0.31
事故後の増加: 83 %
モギリョフ州
3.50 0.53
6.41 0.30
8.82
0.20
事故後の増加: 83 %
ビテプスク州
3.60 0.63
5.04 0.27
0.24
-
事故後の増加: 40 %

 

まとめ

われわれの調査結果は,ベラルーシの住民において胎児異常の頻度が増加していることを示している.それらは,人工流産胎児の形成障害および新生児の先天性障害として現われている.そうした増加の原因はまだ断定されていない.しかしながら,胎児障害の頻度と,放射能汚染レベルや平均被曝量との間に認められる相関性,ならびに新たな突然変異が寄与する先天性障害の増加といったことは,先天性障害頻度の経年変化において,放射線被曝が何らかの影響を与えていることを示している.

 

文献

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